Quadrophenia 追っかけ旅行記

Introduction

'89 年は、悔やみきれない年となった。Rolling Stones が活動を再開、北アメリカツアーが始まる。同時期に The Who も同じく7年ぶりのツアーを始めていた。この時アメリカに渡っていれば、この二つのいわゆる「日本に来日していない最後の大物バンド:-)」を見ることが出来たかもしれない。しかし一方で、いずれも来日する噂がかなり確実となり(実際 The Who もオーストラリアおよび日本ツアーが計画されていた)、果たして翌年 Stones は来日したが、The Who は来日しなかった。

どう考えてもバンドの性格上これが The Who の最後の大規模なツアーになることは明らかで、僕ら日本人は生で体験できないことを覚悟する必要があった。だからもしも The Who がたった一度だけでもステージに再び現れることがあれば、それを逃すことは絶対にしない、と誓った。

Good News

インターネットというものは便利なものだ。John Entwistle が New Album を制作し、ツアーも行っていることさえ日本に居ながら知ることが出来る。でもさすがに Hyde Park で The Who が演奏することを知ったときは驚いた。しかも Quadrophenia を完全演奏するらしい。この情報を得たときは、ライブ当日まで一カ月と無かった。慌てて情報収集に走る。

まずチケットだ。チケットぴあやチケットセゾンでは、外国のコンサートのチケット手配も受け付けていることを知る。まず会社のそばのぴあで調べると、あっけなく SOLD OUT。セゾンに電話すると、人気があるため、プレミア覚悟で申し込んでくださいといわれる。しかし数日後まったく取れないとの連絡あり。

次は飛行機。海外の格安チケットは6日以上の旅行でないと受け付けないことを知る。定価で買えば、倍以上の値段となる。これは困った。友人のつてでも同じ返事を得る。しかしめちゃ安のチケットが手に入るらしい。ええい、もう何日でも休んでしまえ。

東京のように不法労働者の多いイギリスでは、入国時に滞在ホテルが決まっていないと入国審査がうるさいらしい。しかし件のコンサートのお蔭で安いホテルはどれも満室状態。仕方無しにゴージャスなホテルを予約。

ああ、パスポートも手に入れなければ。

Arrival

27日木曜夜。ロンドンに到着。地下鉄でホテルに向かう。あと一駅というところで、不通となってしまい、別の経路を探す。一般にロンドンの地下鉄は本数も多く、網の目のように流れていて便利だが、たまにはめられるようだ。疲れたのでその辺を散歩してすぐ戻る。まだ明るいが、既に9時を過ぎている。

Rehearsal

二日目。取り敢えず観光らしいことをしようと朝からロンドン塔へ向かう。ときおり雨が降るので寒い。タワーブリッジも見学すると昼になったので、ハイドパークへ様子を見に行く。

いきなりその光景に驚く。marble arch そばの広大な一角が、高いフェンスに囲まれている。フェンスは高く中は見えないが、出口付近は網となっていて、ステージを伺うことが出来た。と思ったら、聞き覚えのあるギターが。Clapton だ。リハーサルをしている。最初の曲は知らない曲。さらに Layla のアコースティックバージョンと、Tearing apart をやっている。ホットドッグを喰いながらしばし見学。しかしまてよ、Clapton がリハをやっているということは...。

次のセッティングが始まったのでじっと待つ。誰かな?しかし寒い。雨も降ったりやんだり。ごきげんな Rock & Roll が始まった。Dylan らしい。1,2時間は続くだろうから、いったん Hyde Park から避難する。

時間つぶしに選んだのは、White City。Hyde Park から地下鉄で20分ほどの郊外にある公営団地。何でこんな所に来たかというと、Pete Townshend の同名のアルバムがあるから。なんてミーハーなんだ。ジャケットや映画と同じ光景が広がっている。

再び Hyde Park に戻ると雨もやまなくなってきた。風も強くステージに横殴りとなっているはずだ。そんな中 Quadrophenia が始まった。"Real Me" 間違いなく Roger の声。John のベース。しかし Pete が居ないようだ。やや不安が広がる。そのまま "Quadrophenia", "Cut my hair" と続く。Pete のボーカルが無いまま、"Cut my hair" が途中で中断。まさか?

いきなりレコードと同じギターカッティングが始まった。アコースティックギター。Pete だ。あたまのコーラスを外して大笑いしている。他の誰でもない。"Punk and Godfather"。 まさに日本から来た Punk が Godfather に出逢う。観客数十人。なんて贅沢なリハーサルだ。

曲の合間には、ナレーションが入る。どこかで聴いた声と顔。フィルダニエルだ。映画のジミーもやや歳を取った様子。

やはり The Who の公演は特別らしい。スタッフも僕らに下がれと要求する。トレーラーがステージ前をふさぐように移動してきた。PA もあらかたのチェックが終わるとメインのスピーカーからは音を出さなくなった。音もほとんど聞こえない。ステージ上方のスクリーンだけ見つめる。

結局ほぼ完全なリハーサルであった。The Rock が始まったあたりで、風邪をひきそうになってきたので、退散することにする。ブロードウェイの Tommy を見ようなどと計画していたのだが、結局 Hyde Park で半日以上すごしてしまった。

Masters of Music

ライブ当日。朝から Hyde Park へ向かう。思ったほど人は集まっていない。London 子にとって The Who は身近な存在なのだ。ちょっとうらやましい。The Who の女性ファンも幅広い年代で多い。明らかに40過ぎたオバサン(失礼)が Quadrophenia の T シャツを着ているのがすばらしい。

チケットはあっさり入手できた。ゲートに並ぶ。正午すぎ開場。皆走る。しかしステージまでは歩けば5分以上はかかる距離。元気なものだ。ステージ中央やや右寄りカメラスタンド脇の好位置をキープ。開演を待つ。

1時すぎ。開演。Bob Dylan が出てくるまで、まったく知らないバンドばかり。いや一般には結構有名なんだろう。観客は正直でめちゃくちゃ盛り上がったり、座ったり。しかしほとんど立ちっぱなしなので疲れる。

4時すぎくらいに Bob Dylan が登場。見たことある奴も一緒だ。Ronny Wood。まったく出たがり。何するわけではないが、彼がいるだけで心が和む。いい奴。Dylan はほとんど聴かないが、結構楽しめた。

さて、The Who が登場だ。昨日見ていたお蔭で、楽しむことだけに集中できた。突然人口密度が増す。凄い人の数。背伸びしてもほとんどステージが見えない。演奏はほとんど完コピー。唯一ゲストのデビッドギルモアだけが彼流のギターを弾いた。Roger は眼帯をしている。眼帯にはModsの象徴ともいえる標的のマーク。確か昨日は眼帯はしてなかったと思う。そう言えばリハの途中で Roger が居なくなって Pete が代わりのボーカルを取っていたことがあったが、マイクを目にぶつけたかな? Dr.Jimmy の時に一瞬だけ眼帯を外してみせたが、青あざが広がっていた。でも元気にマイクを廻している。声の調子は今一つ。Pete の方が良い。でも Pete は腕も廻さず、飛ぶこともしない。これは The Who じゃないのだよ、といわんばかり。そう、オフィシャルには The Who の文字は見あたらない。あくまでこれは Quadrophenia であり、Pete, Roger, John がゲストと一緒に演奏するのだ、というスタンスを取っているようだ。でもこれが The Who じゃないとすれば何だ? John はまさに John である。Love reign o'er me が始まる頃、日が射し始めてきた。

アンコールはやる曲がないと言って、"5:15" を再演奏。そして終わり。Quadorphenia のみのライブだ。後方でModsが騒いでいる。「のんびり座ってんじゃねーよ。俺たちにもスペースをくれ。ほらそこ、本なんか読んでんじゃねーぞ。」そして、"We're Mods, We're Mods" の大合唱。今は一体いつだ?

疲れたので Clapton は端の方で見ることに決めた。脱出に30分はかかったが。間に前座バンドをはさんで、Clapton が登場。いつもの演奏。やっぱり Clapton は落ち着いて見る方が良い。コンサート終了は10時。さすがに暗くなっていた。15万人が去った様子は、まさに Wood Stock のラストの光景と同じ。気の遠くなるようなゴミの山。

補足

Live 風景
Clapton が始まるまではとてもカメラを構える余裕は無かった。
Roger の眼帯
あとで聞いた話では、この予想はある程度当たっていて、実際には、リハーサルで、Godfather 役の Gary Glitter のマイクスタンドが Roger の顔面に当たったらしい。
The Who ではない?
チケットを見てもわかるように、The Who の文字は見あたらない。

Brighton

Quadrophenia を見たならばここへ行かないと。というわけで Brighton へ行く。Waterloo 駅からは直通便は無いが、やっぱりここから乗らないとね。London から1時間あまり。国鉄車内はがら空き。この寒さじゃ Brighton 行っても仕方ないよな。

お決まりの Fish & Chips を喰ったが、これがまたまずいこと。気分が悪くなる。Jimmy の気持ちわかるなあ。しかし皆さん本当に Chips (フライドポテト)が好きだね。もう飽きた。

帰って Tommy を見ようと思ったが、今日は日曜日で休みであることに気付く。残念。閉店前に Tower Records へ行って、CD を買う。東京並みに高い。Quadrophenia の Remix/Remaster 盤も発売されていた。

Return to Tokyo

結局ほとんど観光らしいことをしてなかったので、バッキンガム宮殿で衛兵交代式を見る。うーん、sightseeing。さらに大英博物館へ行く。既にかなり疲れているので、流し見。初めてうまいサンドウィッチを喰ったあと、帰路へ着く。


おまけ


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